日曜美術館「#アートシェア 今こそ、見て欲しいこの一作」/アートシーン「染色家・志村ふくみ」(2020.05.31)

もしかすると、歴代の日曜美術館の中でも最大人数が出演する回かもしれません。
総勢10名のゲストが「今、見てほしいアート」を1つずつ紹介するアートシェア。
メッセージ、ビデオレター、中継をつないでのトークなど、
様々な方法で作品への思いを語ってくれます。
小野さんも久しぶりにリモートでの参加でした。

2020年5月31日の日曜美術館
「#アートシェア 今こそ、見て欲しいこの一作」

放送日時 5月31日(日) 午前9時~9時45分
再放送  6月 7日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授) 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

新型コロナウイルスに揺れる今だからこそ、見てほしいアート作品がある。題して「#アートシェア」。番組では,アーティストや美術館関係者などに緊急アンケート。横尾忠則さん、安藤忠雄さん、辻惟雄さん 原田マハさん、会田誠さんなどがとっておきの一作をアートシェアします。あの名画から、知られざる逸品まで。今を生きるための「ヒント」にあふれた作品たちをお楽しみ下さい。(日曜美術館ホームページより)

出演
辻 惟雄 (美術史家)
飯沢耕太郎 (写真評論家)
いとうせいこう (作家)
原田マハ (作家)
安藤忠雄 (建築家)
横尾忠則 (アーティスト)
橋本麻里 (美術ライター)
高橋明也 (三菱一号館美術館館長)
会田 誠 (現代美術家)
片岡真実 (森美術館館長)


10人の専門家がすすめる「今だからこそ」のアート

行きたいと思った時に美術館に出かけて、
自由に作品に出合えることが
どれだけ素晴らしいことだったかと気づかされる今日この頃です。
今回の日曜美術館では、現役のアーティストや美術に関わる人たちが
「そんな今だからこそ見てほしい・分け合いたい」作品を紹介してくれました

辻惟雄さんの#アートシェア 伊藤若冲《象と鯨図屏風》

辻さんが、この不安な時期の「なぐさめ」「なごみ」になるような作品を、と
選んだのは、MIHO MUSEUMが所蔵する
六曲一双(六枚にたためる屏風が左右ひとつずつの構成)の屏風絵。
若冲が82歳の時に描いた作品です。
鮮やかな色彩で知られる若冲ですが、こちらは墨一色で描かれています。
ゾウは鼻を持ち上げ、クジラ(背中の一部しか見えない)は潮を吹いて
陸と海で一番大きい動物同士がが
それぞれの場所からお互いに和やかに挨拶を送りあっているような、
どこかのんびりした雰囲気の漂う絵でした。

飯沢耕太郎さんの#アートシェア 牛腸茂雄『SELF AND OTHERS』

飯沢さんのおすすめは、
写真家の牛腸茂雄(ごちょう しげお 1946-1983)が
1977年に自費出版した写真集です。
牛腸は3歳の時患った胸椎カリエスのために
背中が曲がるハンディキャップをかかえながら、
36歳で亡くなるまでに3冊の写真集を自費出版しました。
代表作『SELF AND OTHERS』では「自己と他者」というタイトルの通り、
家族や友人、近所の子どもなど、自分の身のまわりにいる人々を撮影しています。
外出がままならない中で、自分の身のまわりの人と自分との関係を改めて考える
「その一つのヒントみたいなものがたくさん詰まっている写真集」だと
飯沢さんは語っています。

いとうせいこうさんの#アートシェア バンクシー《ゲーム・チェンジャー》

覆面アーティスト・バンクシーの最新作です。
男の子が持っているのは、マスクをつけた女性看護師の人形。
背後にあるごみ箱にはバットマンとスパイダーマンらしき人形が捨てられています。
「ゲーム・チェンジャー」とは「変革をもたらすもの」という意味だそうで、
人々の求める英雄がマッチョなスーパーヒーローから
医療従事者に変わった、というメッセージがあるのでしょうか?
いとうさんは「社会問題を鋭い皮肉とユーモアで表現するバンクシーらしい」と
コメントしています。
この作品はイギリス南部の病院に送られたもので、
医療サービスの資金を調達するためオークションにかけられる予定です。

原田マハさんの#アートシェア フィンセント・ファン・ゴッホ《星月夜》

原田マハさんは、学芸員として勤務したこともある
ニューヨーク近代美術館の《星月夜》を選びました。
心のバランスを崩してサン=レミの病院に入院していた
36歳のゴッホが描いた作品です。
人生で最も困難だっただろう時代、それでも創作を続けることで自己を肯定し、
世界に挑んだ芸術家・ゴッホの生の証がこの作品であると原田さんは言います。
「左側の糸杉は、川辺にたたずむ孤高の画家自身であるように、私には見える」
病室の窓から見える夜明け前の空を描いたゴッホは、
この作品を描いた約1年後に亡くなっています。

安藤忠雄さんの#アートシェア クロード・モネ《睡蓮》

モネの《睡蓮》といっても色々ありますが、
こちらは安藤さんが設計した地中美術館(香川県直島)に収められています。
地中美術館は、
クロード・モネ、ジェームズ・タレル、ウォルター・デ・マリアの作品を
半永久的に展示する場所として2004年に設立されました。
自然光を取り入れた特別な展示室に収められた5点の《睡蓮》は
現在の状況だと気軽に見に行くわけにもいかないのですが、
安藤さんは「光を求めた作家」モネの絵を見ることで
希望(=光)のむこうに自分が生きている姿を見出すことを願って
あえてこの作品を選んだそうです。

横尾忠則さんの#アートシェア パブロ・ピカソ《ゲルニカ》

ピカソが好んだボーダーシャツの上に《ゲルニカ》のTシャツを重ね着して
登場した横尾さんは、グラフィックデザイナーとして活躍していた1980年に
この大作と出会って衝撃を受け、45歳で画家に転身しました。
1937年、スペイン・バスク地方に無差別都市爆撃がおこなわれたことに抗議して
わずか1か月余りで描かれた作品です。
ただし横尾さんは《ゲルニカ》のことを
現在の「コロナ時代」とも結びついており、
もしかすると未来に起こる何かとも結びついているのかもしれない、
普遍的な何かを持った「すごい遺産としての作品」であって
「単なるゲルニカ(爆撃)を告発した作品ではないと思うんですよね」
とも言っています。

橋本麻里さんの#アートシェア 岩佐又兵衛《洛中洛外図屏風》(舟木本)

橋本さんおすすめの東京国立博物館所蔵の《洛中洛外図屏風》には、
人々が太平の世の中を思う存分楽しんでいる様子が描かれています。
五条大橋では花見帰りの酔っ払った集団が踊り狂い、
四条河原には人形浄瑠璃や遊女歌舞伎の舞台が掛かっています。
お花見も舞台見物も、現在の我々はお預けされているわけですが、
だからこそ、絵の中にいる人々の熱気は魅力的に見えます。
リモート美術館の案内人もつとめている橋本さんですが、
外出自粛が呼び掛けられる中、
展覧会に出かける道のりから美術館を出た後お店で一杯やるまでのすべてが
「美術を楽しむ」という体験を作っていることを改めて感じているそうです。

高橋明也さんの#アートシェア オディロン・ルドン《グラン・ブーケ》

高橋さんは、館長を務める三菱一号館美術館の収蔵品から
縦2.48×横1.62mの「大きな花束」を紹介しました。
幻想の存在を描き続けたルドンらしく、
青い花瓶に山盛り活けられた花々の中には
現実に存在しないものも入っているそうです。
この作品は度々公開されていますが、
東日本大震災の後に公開された時には、
幾人もの人が作品の前で祈るようにしていたそうです。
見る人が自然と頭を垂れたくなるような神々しさや
人の背丈を超えるサイズ感は実際に見ないと分からないもの。
高橋さんは「実際に作品の前に立っていただきたいと思います」と言っていました。

会田誠さんの#アートシェア 島袋道浩《起こす》

2017年夏に宮城県の石巻を中心に開かれた
「リボーンアートフェスティバル」で発表された現代美術の作品です。
浜辺に流れ着いた流木を起こして立てていくのは
誰もが1度くらいやったことがあるかもしれませんが、
大小さまざまな(中には丸太みたいなものもあります)
流木を来る日も来る日もひたすら起し続けるのは中々ないことだと思います。
実際に会場で見た会田さんは、この作品の
「芸術が持つ「お節介さ」「押し付けがましさ」を極力おさえたところが良かった」
のだそうです。
この作品は既に残っていませんが、インターネット上で画像を見ることもできます。

片岡真実さんの#アートシェア ヴォルフガング・ライプ《ヘーゼルナッツの花粉》

国内外の現代アートに詳しい片岡さんも、インスタレーション作品を紹介しました。
2013年にニューヨーク近代美術館の展覧会で発表されたこの作品は、
生命を探求し「花粉こそ花の本質です」と語るアーティストが
20年がかりで集めた花粉を床に撒いて作ったもの。
(1シーズンで集められる花粉はビン1つ分なんだとか)
最終的には各辺が6mあるクリーム色の四角形になります。
片岡さんは外出自粛中、
いろいろな人の手で植物の写真がSNSにアップされているのを見て、
植物の持っている生命のエネルギーが人を惹きつけているのではないかと思い、
ライプの作品を思い出したそうです。

ヘーゼルナッツの花粉を制作したヴォルフガング・ライプさんは
番組にメッセージ「花粉を集める」を送ってくれました。


アートシーン 特別編
アーティストのアトリエより―染織家・志村ふくみ

一着の着物を作るまでの作業は、
糸づくり、染め、織り、仕立など細かく分業されているのが普通ですが、
草木染による紬織りの第一人者である志村ふくみさんは、
蚕の繭から糸をとることに始まるほとんどの工程をご自分の工房で行っています。

アートシーン特別編。「アーティストのアトリエより」と題してお届けする。2014年6月に放送した「日曜美術館」から、染織家・志村ふくみが四季の自然の中植物の色を見つめ、制作する様子を追った。今回志村さんが番組に寄せてくれた、この厳しい時代を生きていくためのメッセージも紹介します。

志村さんの着物といえば繊細な色遣いで知られ、
特に独特のぼかしは他にまねできないと言われています。
その色づかいに欠かせない草木染は、化学染料に比べるととても不安定で、
作業の間にも変化を続け、着物として完成した後も褪色・変色していくものですが、
志村さんはそのどうなるか分からない不安を持った所に
「何かひとつの美がたゆたっている」と言います。

染めあがった糸は機にかけて様々な柄を織り出していきます。
その発想のもとになるものは様々で、
時にはイギリスの画家ベン・ニコルソンの作品や、
オランダの作曲家シメオン・テン・ホルトのCDジャケットから
日本的な織物が生まれることがあるそうです。
志村さんのスケッチブックには、たくさんの色・柄の着物が描かれていました。
あのひとつひとつがどういった経緯で生まれたものか、
なんだか気になってしまいますね。

新型コロナウイルスの渦中にある現在、
工房では草木染のマスクに取り組んでいるとか。
「いまこの厳しい時代、人間がより強く求めるもの。その究極は美しいものだと思います」
と語る志村さんは、状況が刻々と変わる中でも
自分のするべき事をみつけて、実行し続けているようです。

志村ふくみ展(姫路市立美術館)

兵庫県姫路市本町68-25

2020年7月4日(土)~8月30日(日)

10時~17時(入館は16時30分まで)

月曜休館 (8月10日は開館し、翌11日休館)

一般 1,000(800)円
大学・高校生 600(400)円
中・小学生 200(100)円
※( )内は20名以上の団体料金

滋賀県立近代美術館のコレクションを中心に、
初期から近年までの作品を展示する展覧会です。