東京芸大の美術館で開催中の
「あるがままのアート 人知れず表現し続ける者たち」を訪ねます。
タレントのりゅうちぇるさんをはじめ、さまざまな立場からアートにかかわる4人が
独自の世界を自由に表現した作品を前に、これまた自由に語ります。
2020年8月23日の日曜美術館
「カラフル! 多様性をめぐる冒険」
放送日時 8月23日(日) 午前9時~9時45分
再放送 8月30日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
司会 小野正嗣(作家、早稲田大学教授)
語り 柴田祐規子(NHKアナウンサー)
不思議な焼き物、驚きの細密画、色彩豊かな糸のかたまり…。東京藝大の美術館で開かれている「あるがままのアート展」は、アール・ブリュットやアウトサイダーアートと呼ばれることの多い作品を集めた展覧会。ETV特集「人知れず表現し続ける者たち」で取材を続けてきた作家を中心に、作ることと生きることが一体となったような作品が並ぶ。そんなアートと多彩なゲストの出会いのドキュメント。多様性をめぐる冒険へようこそ。(日曜美術館ホームページより)
出演
りゅうちぇる (タレント)
奥貫 薫 (俳優)
稲葉俊郎 (医師)
藝大で見るアール・ブリュット
アール・ブリュットとは「生(なま)の芸術」という意味で、
伝統的な美術訓練を受けていない人が制作したアートのことを指します。
フランスの画家ジャン・デュビュッフェが1945年に提唱しました。
美術教育の場である藝大で行われるのはなんだか不思議な気もするこの展覧会、
正規の美術教育を受けず、だからこそより独特な境地を作りあげた
25名のアーティストによる、約200点の作品が展示されます。
この展覧会はEテレで放送中のドキュメンタリー番組「no art, no life」が
もとになっており、番組から提供されたアーティストの制作風景などの映像も
あわせて紹介されているそうです。
りゅうちぇるさんと
りゅうちぇるさんが美術や芸術のとりこになったのは、
決まりごとにとらわれず、自由に表現する作品に出会ってから。
そんな作品が集うこの展覧会は、とても楽しみだったそうです。
小森谷章《無題》ほか
会場で最初に出会ったのは、何色もの糸をぐるぐると巻きつけたオブジェ。
ただの糸のかたまりにも見えるし、何かを表しているようにも見える作品は
近くで見るても一本一本の糸が「全然喧嘩してない」繊細な色彩を持っています。
松本寛庸《加藤清正と徳川家康の陣取り合戦》
作者の地元の偉人・加藤清正の軍が日本地図を埋め尽くす様子を
カラフルに表現しています。
対する江戸の家康とその周辺は白っぽくぼんやりした色になっていて、
いまにも飲み込まれてしまいそう。
スケールの大きい架空戦記を読んでいる気分になりました。
古久保憲満《3つのパノラマパーク 360度パノラマの世界》
6年がかりで完成された、縦1.6m×横10mの巨大な絵巻。
ボールペン、色鉛筆などを使って描かれた空想の世界ですが、
現実に不安を感じている時期に描いた部分は暗い色を使うなど、
作者の心の年代記でもあるようです。
魲万里絵《ゆらせ ぬらせ》
りゅうちぇるさんが思わず「うわあ、すごい」と声をあげたのは、
ショッキングピンクや黒など強い色をメインに描かれた女性像。
中心で寝そべり子供を産み落とすふくよかな女性ですが、
よく見ると陰のように見える部分にも背景にも
女の体やそのパーツが敷き詰められています。
りゅうちぇるさんはこの絵の
コントラストが激しくグロテスクなものも取り入れたカラフルな世界の
「ド派手なんだけど 悲しみがある 辛さがある 憎しみがある」テイストに
原宿ファッションと共通するものを感じたようです。
渡邊義紘《折り葉の動物たち》
思いもよらない素材で作られた動物の姿に、
思わず「ほんとに!?」と問いかけたくなるかも知れません。
枯葉が形を変えて動物になっていく様子は
映像でも紹介されています(会場でも公開中)。
奥貫薫さんと
奥貫さんは、15年ほど前からダウン症や自閉症の子供と一緒に
絵を描く教室に参加しています。
何の約束事もなく、描きたいものを描く「とにかく自由」な中で
ひとりひとりが持つ多様な世界に触れる時間がとても楽しいんだそうです。
藤岡祐機《無題》ほか
紙に細かく鋏を入れていくと、切った傍からくるくる縮れていきます。
これを何度も繰り返して作りあげる藤岡さんの作品は
紙というよりも厚みのある布か、不思議な植物のようにも見えます。
奥貫さんはこれらの作品を、作家の制作を支え作品を保管する
お母さんの浩子さんとの「親子の共作」と感じたそうです。
澤井玲衣子《パリのチェリー》ほか
ゆったり波を描くような色彩の帯と線で埋め尽くされたような画面から
描く人の腕の動きも伝わって来るようです。
奥貫さんはこの作品を前に、
「どうやってその色たちを捕まえるんだろう
どうやってその線を見つけるんだろう
どうやってその形を形づくるんだろう」
と言っていました。
この作品や、アウトサイダーアートの世界に限らず、
芸術全般に通じる問のようにも聞こえます。
井村ももか《赤い玉》ほか
最初は帽子かと思い、次に枕だろうかと首をかしげる不思議なオブジェ。
色とりどりのボタンを布に縫い付け、丸めたものです。
よく見るとボタンをつける糸も白だったり色糸だったりと個性豊かで、
作者のこだわりがあるのかもしれません。
職業柄いつも「どうやって演じるか」を考えてしまい、
自分を発信するよりも「こうあるべき」という形にとらわれてしまう奥貫さんは、
これらの作品から「自由でいいんだよ」ということを教えてもらっているんだとか。
稲葉俊郎さんと
優れた芸術は医療でもあると考えている稲葉さん。
医療の現場にも表現を取り入れています。
学問としての美術や画壇の流行などとは無縁で、
だからこそ内的なイメージと深く結びついている
アートの世界に惹かれるんだそうです。
澤田真一《無題》ほか
見た目はトゲに覆われた生物の群。
サンショウウオのようなものあり、ウルトラマンの怪獣のようなものあり、
人間の顔ありと個性豊かです。
粘土を捏ねて焼き上げた陶器の作品なので、
縄文土器のような雰囲気もあります。
なんだかあどけない顔をしたとげとげの生物たちについて、稲葉さんは
「澤田さんの人間性によってこの形に落ち着いているんだなという気はします」
と語っています。
小野正嗣さんと
司会を務める小野さんも、一鑑賞者として参加しています。
金崎将司《見つけられたもの》
小野さんが「これはなんですか」と首をかしげて眺めていたのは、
雑誌やチラシを糊で貼り付けた紙のかたまりでした。
正体が分かった後も「え、紙なの?」と驚くくらい、元の面影はありません。
(わたしには石でできた謎の物体か、巨大生物の骨のように見えました)
一年以上かけて作られたかたまりは、
近くから見ると紙の重なりが地層のように見えます。
「こういうものが世の中にあるってすごく嬉しいですよね」という
小野さんの意見には全面的に賛成です。
高田幸恵《無題》ほか
「想像上の生き物の毛皮とか皮膚みたい」な色とりどりのピースは、
編物か織物と思いきや布に刺繍をしたものだそうです。
針一本で作られたとは思えない色の連なりは、
小さいものでもかなり主張が強く見えます。
川上建次「いじめられっ子キーピー」ほか
迫力のある油彩画は、手足が自由に動かない作者が介助を受けながら描いたもの。
小野さんはこの絵を見て、作者の中で描きたいものが湧き上がってくるのに
「僕らには想像できないような、外界から凄い力を受けてそれを邪魔されてる」
「それにも負けないで、屈することなく筆をとって自分の命を描きつけている」
と感じたそうです。
再びりゅうちぇるさんと
にぎやかなトークの印象が強いりゅうちぇるさんを
無口にさせてしまった作品がありました。
福井誠
《私の宇宙、人を見失い、自分を失う、ゾゾ、それでもあなたは人を愛せますか?》
画面中に描かれた目の中には、
奇妙な夢に出て来るような非現実的な生き物が潜んでいます。
「瞳の中にいる生物が、ひとりも優しそうな人がいない」というりゅうちぇるさん。
自分に目を向けてくるものがすべて敵、というような作品の空気を
「僕には感じない感情」と感じ、言葉が出てこなくなりました。
どれだけ共感できるところを探そうとしても分からない、それでも
「理解できないからあなたのことを受け付けない、認めないというんじゃなくて」
「理解できないけど認め合う」というような「柔らかい大人になりたい」と言います。
5年後、10年後の自分で同じ作品を見てみたい、と考えているりゅうちぇるさんは
既にとても柔らかい大人なんじゃないか、という気もするのですが…
特別展
「あるがままのアート −人知れず表現し続ける者たち−」東京藝術大学大学美術館
東京都台東区上野公園12-8
2020年7月23日(木)~9月6日(日)
月曜休館
10時~17時
※入場は閉館の30分前まで
入場無料
※オンラインの事前予約が必要(予約はこちらから)
会場に行くことが難しい人のためには、
遠隔操作ロボットを活用したロボット鑑賞会や、
展示映像や音声ガイドを楽しめるバーチャル美術館のコンテンツが用意されています。
スペシャルコンテンツ
「no art, no life」(Eテレ)
正規の美術教育をうけずに独自の表現を追求するアーティストを紹介する5分間の番組。
放送 毎週水曜 午後10時45分 (再放送は金曜の午前11時50分)