東京・六本木の森美術館でで開催中の
「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」では、
まさに「スター」と呼ぶにふさわしいアーティスト6人の活動歴とともに
初期と最近の作品を紹介します。
村上隆と李禹煥、杉本博司と宮島達男による対談も。
(2020年12月27日 アンコール放送)
2020年9月27日の日曜美術館
「STARS それぞれのデビューから現在」
放送日時 9月27日(日) 午前9時~9時45分
再放送 10月4日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
語り 柴田祐規子(NHKアナウンサー)
東京・六本木に、日本が世界に誇る現代アーティストたちが大集結。草間彌生、李禹煥、杉本博司、宮島達男、奈良美智、村上隆。1950年代から2000年代まで、それぞれの時代で日本を飛び出し、世界に衝撃を与えた6人です。彼らは、いつどのようにして世界に認められ、今何を考えているのか。「出世作」と「最新作」を通して、日本の現在地を読み解きます。豪華な対談とインタビューは必見!(日曜美術館ホームページより)
出演
村上 隆
李 禹煥
奈良美智
草間彌生
杉本博司
宮島達男
片岡真実 (森美術館館長)
多様なアーティストが集まったドリームチーム
ここで取り上げられる6人はいずれも1950~2000年代にかけて
日本を飛び出し海外で活躍した人たちです。
独自の道を歩んだ人々は表現の方法もそれぞれ。
館長の片岡真奈美さんによれば、
これは「ドリームチーム」なのです。
村上隆と李禹煥
村上隆さん(1962-)が1998年に発表した
等身大フィギュア《マイ・ロンサム・カウボーイ》は、
ニューヨークのオークションでおよそ16億円で落札されたそうです。
ニッポンのオタク文化の象徴だったフィギュアを新たな彫刻作品に昇華させた
この作品の3年後には、アメリカで展覧会「SUPERFLAT」を企画・開催。
浮世絵・マンガ・アニメなど日本独自の平面的な美意識を世界に発信しました。
李禹煥さん(1936-)は1956年に20歳で来日。
60年代後半から70年代にかけての高度経済成長期で
近代社会の完成とそれが壊れる瞬間を一度に経験しました。
ものが溢れる時代に作ることを否定し、
物や素材を展示する「もの派」として芸術の既成概念に挑戦した初期の作品が
ガラスの上に大きな石を落とした《関係項》(1969/2020)。
けれども周囲から理解を得られず、1970年代に活動の場をヨーロッパに移します。
対談
村上さんと李さんの対談は、李さんの展示室で行われました。
村上さんは李さんが試行錯誤していた70年代は
東洋と西洋のアートが断絶していた時代、
いかに東洋が西洋の理解を得るかということを模索した時代であり、
その上に現在の自分たちの活動があると考えているようです。
李さんによれば、アーティストは運動選手と同じく世界と戦わなくてはならない。
そうして国の枠を超えて選抜された限られた人同士で戦うようになると、
「はじめてそこからスタートライン」なんだとか。
そのレベルで戦うアーティストを育てるためには
アートを受け入れる側にも高いレベルが必要で、
誰にでも分かりやすく…と内向きになっていてはなかなか実現できない。
世界に出て戦う勇気が必要なんだそうです。
李さんが作った土台の上に村上さんがいるとして、
さらにその上に積み重ねていくためには
鑑賞者にも世界で戦う意気込みが必要なんでしょうか?
奈良美智
奈良美智さん(1959-)は、愛知県立芸術大学美術学部の大学院を終了後、
1988年にドイツ国立デュッセルドルフ芸術アカデミー大学に留学して美術を学びました。
勉強としては修めているものの、幼少期の奈良さんは美術と全く無縁だったことから
美術の中に入っていくことは昔の自分を捨てるような気がしたそうです。
美術以前の自分を形作ったものから作品を作れないか、という思いから生まれたのが
《地雷探知機》(1993)など、単色の背景に描かれた頭の大きな少女像でした。
POPで毒がある少女像は数多くのファンを獲得しましたが、
絵の表面的な可愛さやキャラクターとして受け入れられることは新たな葛藤を産みます。
さらに2011年の東日本大震災で「芸術は何もできないんじゃないか」という思いが生まれ、
美術って何なんだろう? 他者と自分を結び付ける美術とは?
と考えた奈良さんが新たに描いたのが《Miss Moonlight》(2020)でした。
奈良さんの少女像といえばジトッとした目つきのイメージがありますが、
この作品の少女は穏やかな表情で目を閉じています。
草間彌生
草間彌生さん(1929-)は、1957年にニューヨークへ渡り、
2年後にはじめての個展で《No.A》(1959)を発表。
反復を繰り返して画面を埋めていくやり方は初期から変わらないようです。
白い絵の具の網目をびっしり敷き詰めた作風は、
ミニマリズムの先どりと絶賛されました。
90年代に再評価され「水玉の女王」として人気を集めた草間さんは、
90歳を超えた今でも制作を続けています。
黒い背景に朱色で描いた《たくさんの愛のすばらしさ》(2019)は
生命の賛歌として描き続けているシリーズのひとつだそうです。
今こそ全ての人々の最愛の人類愛と努力で乗り越えて、
平和を呼び寄せたいと思っている。
そして、愛のために呼び寄せた我々の願いを叶えたい
世界中の人々よ、今この時こそ全ての人類が
立ち上がって欲しい
そして、すでに戦っている人々へありがとうと言いたい「全世界への草間彌生からのメッセージ」(2020.09.15)
草間さんは、新型コロナウイルスで混乱する今の世界に対して、
こんなメッセージを発表しています。
杉本博司と宮島達男
80年代半ばからデジタルカウンターを使った作品を発表している
宮島達男さん(1957-)は、規則正しく増える(減る)数字を通して
生と死、永遠や無限を表現し続けています。
《30万年の時計》(1987)は理論上30万年以上の時間を数えることができるもので、
おそらくカウンターが回りきる所を見られる人はいないでしょう。
1970年に渡米し、ニューヨークを拠点に活動をはじめた杉本博司さん(1948-)もまた、
生と死を追求するアーティストです。
デビュー作の《シロクマ》(1976)は、
シロクマがアザラシを捕まえた瞬間と思いきや、
実はアメリカ自然史博物館の剥製を使って撮影した写真。
「生きている」とは何なのかを考えさせられる作品です。
対談
対談の場所は東京国立博物館の正面階段の前でした。
「トーハクというと、トウハク(長谷川等伯)ですね」という宮島さんが、
等伯の《松林図屏風》の中に
西洋絵画の遠近法を叩き込まれた現代のわたしたちとは異なる
日本人の空間意識を見た、というところから対話が始まりました。
等伯の屏風の中に時間の経過を感じるという杉本さんは、
小学3年生の時に友人が急死したことで「人って死ぬんだ」と実感し、
「生きてる状態と死んでる状態の境」がわからなくなりました。
《シロクマ》等の作品は、自分の中にしか存在しないヴィジョンを
形にして証明するために生まれたんだそうです。
現実の浮遊感を写真に撮って形にしてきた杉本さんと
形のない時間をカウントし続ける宮島さん。
見た目にはあまり共通点のない作品を作る2人ですが、
存在しないものに形を与える、という共通点があるようです。
「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」森美術館
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー
2020年7月31日(金)~2021年1月3日(日)
9月19日(土)から全日、事前予約が不要(「日時指定券」の購入・予約は可能)
混雑の際は入場制限や整理券の配布あり
会期中無休
10時~22時 (入場は閉館の30分前まで)
※11月3日(火・祝)は22:00まで(最終入館 21:30)
一般 2,000円
高校・大学生 1,300円
4歳~中学生 700円
65歳以上 1,700円
※9月21日(月)~10月31日(土)は高校・大学生半額(650円)