日曜美術館「北の息吹を刻む〜絵本作家・手島圭三郎 最終作へ〜」(2021.10.31)

手島圭三郎さんの絵本は、一言で言うなら「硬派」です。
しっかりした黒い線と少ない色数で描かれる北海道の風景。
その中で生きる動物たちの姿も可愛らしい擬人化ではなく、
野生動物そのままの姿で描かれています。
かと思えば、現実とそれ以外の境界が曖昧になっているような
幻想的な雰囲気もあって、
このリアルとファンタジーの絶妙な配合が
手島作品の魅力のひとつかもしれません。日曜美術館では、最終作『きたきつねとはるのいのち』の制作風景を追いかけ、
また手島圭三郎の絵本から、代表作『しまふくろうのみずうみ』など
4篇の作品をアニメーションで紹介しました。

2021年10月31日の日曜美術館
「北の息吹を刻む〜絵本作家・手島圭三郎 最終作へ〜」

放送日時 10月31日(日) 午前9時~9時45分
再放送  11月7日(日) 午後8時~8時45分
放送局 NHK(Eテレ)
語り 柴田祐規子(NHKアナウンサー)

北海道の大自然をテーマに絵本を生み出してきた手島圭三郎(85)。一刀一刀力強い線を刻む木版画で、雄大な風景と躍動する動物たちの命を描いてきた。代表作「シマフクロウのみずうみ」は夜の湖上を音もなく羽ばたくシマフクロウが魚を捕る場面を、詩的でリアルに描き「大人の絵本」というジャンルを確立した。今年40冊目を期に創作活動に幕を下ろすことを決めた手島。一年がかりの執念の創作現場に密着。(日曜美術館ホームページより)

出演
手島圭三郎 (木版画家・絵本作家)
土取利行 (音楽家)


画家・手島圭三郎から絵本作家・手島圭三郎へ

手島圭三郎さん(1935-)は、北海道紋別市に4人兄弟の末っ子として生まれました。
国鉄の職員だったお父さんの転勤で、オホーツク海の近くを転々としたそうです。
家の中でずっと絵を描いている子供だったという手島さんは、
成長して画家を目指します。

手島さんは1957年に北海道学芸大学(現・北海道教育大学)札幌校を卒業し、
中学校の美術教員として勤務するかたわら、
個展などで絵を発表するようになりました。
24歳で木版画と出会い、油彩画から転向して
幼いころから身近にあった北海道の自然を題材にするようになるのですが、
この頃の画壇はヨーロッパの美術をに学んで
世界で勝負できる表現を追求しようという風潮が強く、
地域に題材をとった木版画の評価は低いものでした。

それでも木版画に打ち込み続け、1977年に木版画家として独立。
1981年に、日本版画協会展に出展した版画が、
当時福武書店(現・ベネッセ)の編集者だった松井友さんの目にとまり、
絵本制作の依頼を受けます。
第一作『しまふくろうのみずうみ』(1982)は、絵本にっぽん賞を受賞し、
手島さんは47歳で絵本作家としてデビューしました。

それ以来、およそ1年に1冊のペースで絵本を刊行し、40年。
手島さんは丁度40作目になる最新作を節目に、引退することを決断しました。


手島圭三郎の最終作『きたきつねとはるのいのち』

最後の絵本の制作は、2020年の3月に開始されました。
手島さんの作業は、自宅兼アトリエの近くにある野幌森林公園で
スケッチをする事から始まります。

雪の上に残された足跡からも
動物たちのロマンスや生死をかけたドラマを読み取る手島さんは、
自然のリアルな生態をもとに想像を膨らませ、
さらに自宅で下絵を描きながら構想を練るのです。

最終作『きたきつねとはるのいのち』の主人公は、オスのキタキツネ。
春、巣穴から出てきたキツネが、冬を乗り越えた生き物たちや
新しい命の芽生えなど、さまざまな春の風景を目撃します。
キツネのほかにもヒグマ、ウサギ、リス、モモンガ、
アカゲラ、クマゲラ、フクロウ、蝶々など
手島さんの絵本ではお馴染みの動物たちが登場し、
ちょっとした総集編といった趣があります。

絵本の中には、冬の間に死んだ動物の死骸と
それに群がる鳥や獣(もちろんキツネもその1匹)の姿も描き込まれます。
手島さんは、過去の作品でも自然の営みの中の老いや死を
テーマとして取り入れてきました。

手島さんが引退を決めた理由には、体力の衰えがあります。
木版画を完成させるには、絵を描くほかにも多くの作業が必要になります。
2020年の7月に下絵が完成すると、版木作りが始まりました。

見開き1ページ分の版画を作るために必要な版木の数は、
墨で基本の輪郭線を構成する「骨版」1枚と、
色をつけるための「色版」3枚の合計4枚。
『きたきつねとはるのいのち』の本文は見開き15頁なので、70枚の版木が必要です。

版木になるベニヤ板を原画のサイズに切り出す作業、
反転した下絵を墨で描き写した線を彫刻刀で彫りだす作業、
どれも体力と集中力を使います。

3か月かかって彫りあげた版木に絵の具をつけて和紙に転写する段階でも、
色むらが出ないように、バレンを持つ手に体重をかけて、
素早く動かさなくてはなりませんし、
絵が完成した後は表紙、題名、文章などの作業が待っています。

40代から80代の半ばまで、この大変な作業を続けてこられた原動力は
「好き」「楽しい」という気持ちだそうです。

一生懸命作ってね
苦しいとか 大変だったとかね
言う場合もあるかもしれないけど
これ面白くないと言ったら嘘になる。
本当は面白いんですよ
何よりも面白いのかも知れませんね!
こういうもの(木版画)を作ってね
一喜一憂しながら 毎日汗を流しながら
泣いたり笑ったりする気持ちで仕事をしている
それがあるから40冊 40年間
続けることができたということになるんでしょうね
本当に面白いです

と、手島さんは語っています。
『きたきつねとはるのいのち』は、2021年4月に絵本塾出版から刊行されました。


手島圭三郎の世界 此方と彼方の交差

番組内では、
手島さんの協力のもとアニメーション化して紹介しています。

夏木マリさんが
『きたきつねのゆめ』(1985)『おおはくちょうのそら』(1983)を、
島田久作さんが
『しまふくろうのみずうみ』(1982)『エタシペカムイ』(1990)を朗読し、
土取利行さんが音楽をつけました。

古代の音を探求してきた土取さんは
「古の深い精神世界」を感じさせる物語を表現するために、
世界各地の民族楽器を選びました。
リアルな自然の世界を描きながら、「此方」の世界と
死の世界・夢の世界といった「彼方」の世界を交差させる手島さんの絵本は、
「哲学的 宗教的なものが 何も言わなくても 動物を見るだけで収められている」
と土取さんは言います。

『しまふくろうのみずうみ』について
「現代の日本人の心の中に眠っている縄文時代の感覚を呼び覚ます働きがある」
と評した読者がいたそうです。
手島圭三郎さんの絵本には、此処ではないどこか、今ではないいつかに
読む人を連れて行ってくれる力があるのかも知れません。